今週のお題「読書の秋」
瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』を読みました。
2019年に本屋大賞を受賞したときから気になっていて手元にはあったものの、ずっと読まずのままで…。今月映画が公開されるということで、このタイミングで読んでみました。
あらすじ
幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、
出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。
大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。
感想
あたたかい気持ちに包まれる作品でした。心地よい読後感。
現在と過去が交互に書かれているのでテンポがよかったです。読んでいる中で「どうしてこうなったんだろう?」と思うことが過去の部分でちゃんと明らかにされていくので、続きが気になってどんどんページが進みました。半日くらいで一気に読み終わりました。
困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない。(p8)
第一章冒頭の、この文章が印象に残りました。
この物語の中でもそうでしたが、4回も名字が変わったって聞くと大変そう、可哀そうと思ったりとか、触れちゃいけないように思ったりとか、家庭環境だけで他とは違った見られ方をされてしまうことは多いのかなと思います。
でもこの物語に出てくる親たちは、血の繋がりがあるかどうかは関係なく、自分なりのやり方で親として優子の幸せを願って愛情を注いでいました。
優子もその時々で戸惑いがありながらも、誰かのことを悪くいうわけでもなく自分の置かれた状況を真っ直ぐに受け止めていて。そうしなければいられなかったのかもしれないけど、そういう優子だからこそ、それぞれの親の愛情をしっかり受け取って成長できたのかなとも思います。
物語の中で中島みゆきさんの『糸』が出てきました。もともとこの曲は大好きだけど、この小説を読んだあとに改めて聴いてみて、『逢うべき糸に出逢えることを人は仕合わせと呼びます』という歌詞がすっと心の中に入ってきました。
家族の在り方が多様化している現代ですが、血の繋がりがあるかどうかは関係なく、お互いに想いやること、受け入れること、そういう気持ちが無意識にでも伝わっていることが家族として大切なのかなと感じました。
そして、食卓のシーンが多く出てくるところが好きでした。
特に、現在の父親である森宮さんとの食事シーン。ちょっとズレている森宮さんと優子の掛け合いが面白くてあたたかかったです。
塞いでいるときも元気なときも、ごはんを作ってくれる人がいる。それは、どんな献立よりも力を与えてくれることかもしれない。(p181)
その通りだな、と思いました。今は一人暮らしなのでそういう機会がなかなかないけど、家族で今日あったことを話しながら食べた夕食とか、高校時代に部活で遅く帰ってきたときに母が用意してくれていた私用の鍋とか、いろんなものを思い出しました。
作ってくれるだけじゃなく、だれかと一緒に食事を共にするのって、大事な時間だなあと感じます。
たくさん出てきた食事の中でも森宮さんが優子を励ますために作った餃子が印象に残ったので、読んだ日の夜ごはんは餃子にしました。優子と森宮さんの食卓を想像しながら食事をして、ちょっと優しい気持ちになれた気がしました。
本当に幸せなのは、だれかと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。(p420)
それぞれ違った生き方をする親たちが優子の未来への幸せのバトンを繋いでいく姿を見て、幸せのおすそ分けをしてもらったような気分になれました。
あたたかく優しい、読んでよかったなと思える作品でした。
映画化
映画、キャストさんはそれぞれの登場人物のイメージと合っていると思いました。予告編やあらすじを見た感じだと原作とはちょっとテイストが違うのかな?という印象を受けたけど、どんな作品になっているんだろう。時間ができたら観に行きたいです。